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研修会

「先進事例視察研修会(東京)」の開催結果報告について

2019.2.21

 今年度の事業計画に上げていた標記研修会を組合員26名参加の下に2/8(金)~2/9(土)の二日間、東京都内の施設を会場に開催しました。今回の研修は「永く使い続ける建築物」について理解を深めるもので、建築物のリノベーションと歴史的建造物の保全・活用についての講演・施設見学を行いました。
 初日の2/8(金)は池袋駅から徒歩5分に位置する「自由学園明日館(豊島区西池袋2-31-3)」を会場に創造系不動産(株)代表取締役の高橋寿太郎氏を講師に迎え「建築と不動産のあいだを追求する」と題して13時から約2時間の講演をいただきました。高橋氏は福島県出身の古市徹雄氏の設計事務所に勤務の後、不動産会社勤務を経て現在の会社を設立し、不動産の仲介業務と建築家・デザイナーとのコラボレーション案件を数多く手がけている方です。独立したきっかけは不動産会社で設計から営業担当へ転身したことで、建築設計で知り得た知人・友人を通して業務受注の機会が増えたこと、建築設計と不動産業の隙間を埋める業態の必要性を感じたこと、そのことを会社社長に理解してもらえず自ら会社を立ち上げたとのことです。また、建築家等とのコラボについては、彼らの紹介で土地・建物の物件探しを始めたこと、計画地が決まる前に不動産会社が手がける顧客のライフプランの確認に設計者も関わるべきだと感じたことなどがあると話されました。講演では幾つかの事例を紹介いただきました。その1つが顧客から相談を受けたRC造の建物活用の是非で法定耐用年数を超えた築56年の施設(イマケンビル)だそうです。建て替えるのか、リノベーションするのか、住宅にするのか店舗にするのか、銀行融資は受けられるのか。様々な可能性を模索しながらコラボして進めた案件で、結果は顧客年齢や返済期間を考慮し、耐震性能を確保するため耐震補強でis値を引き上げ、収支計画を含む事業計画全体をマネジメントすることで銀行融資を可能とし、リノベーションを行うことが出来たとのことです。


平子代表理事の挨拶 


高橋氏の講演

 次にお話しいただいたのが「データ分析」と「空き家活用」です。新設住宅の着工戸数は1990年の167万戸をピークに昨年度は約90万戸で2030年には60万戸程度まで減少すると見込まれています。また、空き家は現状で約1,000万戸と言われていますが年々増加傾向にあります。経済政策の1つである住宅政策はこれまでスクラップ&ビルドを前提に進められてきましたが少子高齢人口減少社会を迎え新築住宅が増えるほど空き家も増加するという歪みが出てきています。一方で新築住宅と比較し中古住宅市場は欧米ほど活性化していないとのことです。このような中、縁あって千葉県房総半島に位置する「いずみ市」との連携で空き家活用に関わり、街中にある空き家を「ふれあいの場」として企業や学生の活動の場にしようと現地駐在の社員を1名配置して取り組みをはじめたそうです。講演後、「建築設計に未練はないですか?」と伺ったところ、「自ら設計に携わることはない。」と瞬時に答えられました。現在手がけている不動産仲介業務は設計者からの依頼が100%で住宅以外に企業のオフィスや工場などのコンサルティングもあるという。建築と不動産の間を様々な視点から見つめ顧客に寄り添い取り組んでいる高橋氏の熱い思いを感じることが出来ました。


イマケンビル


カナエル

 そして、15時からの1時間は「自由学園明日館」の見学です。本施設は1921年(大正10年)に羽仁吉一、もと子夫妻が創設した自由学園の校舎として米国が生んだ巨匠フランク・ロイド・ライトの設計により建設されたものです。建設にあたりライトを推薦したのが羽仁夫妻と親交のあった遠藤新(福島県新地町出身)で、当時、遠藤は帝国ホテル設計のために来日していたライトの助手をしていました。中央棟と西棟の基本設計を完了した後、帰国したライトの後を受けた遠藤は東棟の基本設計と全体の実施設計を行っています。また、隣接する敷地に建つ講堂も遠藤の設計によるものです。平成元年に大規模改修が行われた後、平成9年に重要文化財に指定された本施設は喫茶を含む施設見学以外に結婚披露宴や研修、サークル活動の場として貸し出しされるなど多くの来訪者で賑わっています。


自由学園「明日館」外観 


自由学園「明日館」(パンフレット)


中央棟喫茶室(パンフレット)  


食堂(パンフレット)


講堂(パンフレット)


見学時の喫茶室での団らん

 余談になりますが、自由学園は幼稚園から大学部までの一貫教育校で1934年に東京都東久留米市に移転しており、そのキャンパスも遠藤新が設計しています。また、新聞社勤務を経て教育に従事した羽仁夫妻ですが長女は羽仁説子(教育評論家)、その夫が羽仁五郎(歴史学者)、孫は羽仁進(映画監督)、その妻が左幸子(女優)、曾孫に羽仁未央(エッセイスト)がいます。一方、建築家の遠藤新(1889年~1951年)ですが、東京帝大建築学科在学中に建築界の大御所である辰野金吾が設計した東京停車場(現東京駅:1014年完成)の批判論評を読売新聞に投稿しています。論評は都市計画上の問題や平面計画の問題、国民と建築との距離の問題へと展開されており、このことが建築界で物議を醸し出しその後の建築家としての活動に大きな影響を与えたと言われています。また、ライト建築の継承者としての代表作の1つである「甲子園ホテル(現武庫川女子大学甲子園会館:登録有形文化財)」はNHKの朝ドラ「まんぷく」のロケ地としてヒロイン福子が女学校を卒業した後に就職した大阪東洋ホテル(結婚式や商工会定例会のシーン)として使用され、「明日館」と同等に連日多くの観光客が訪れているとのことです。


甲子園ホテル全景(パンフレット)


甲子園ホテル内部(パンフレット)

 一日目の研修終了後、18時から宿泊した「都市センターホテル(千代田区平河町2-4-1)」近くの会席「北大路赤坂茶寮(千代田区永田町2-13-5)」で高橋講師を交えての懇談会を開催しました。講師の高橋氏は古市徹雄事務所勤務時代に福島県内の施設設計に関わったこともあり多方面に渡る懇談の場となりました。また、研修会には若手・中堅所員の参加もあり建築や組合に寄せる思いなど身近なテーマでの意見交換も出来ました。ホテルへの帰り道、何人かで「赤坂プリンスクラシックハウス(旧李王家邸:1930年)」に立ち寄りました。ガーデンテラス紀尾井町(再開発ビル)の一角に移設復原された歴史的建造物でチューダー様式を中心に様々な様式が混在するこの建物は昭和5年に旧李王家の邸宅として建てられた施設で披露宴会場やレストランとして活用されていました。


懇談会風景(高橋講師も参加)


懇談会風景

 さて、2日目の2/9(土)ですが天気予報は大寒波襲来で東京に雪が降るとのことでした。研修会場は東京駅前の丸の内に事務所を構える三菱地所設計(千代田区丸の内2-5-1:丸の内二町目ビル)のオフィス内にあるゲストルームです。講師は建築設計部長の野村和宣氏で、10時からの1時間は「生まれ変わる歴史的建造物」と題して講演をいただきました。東京駅の西側(皇居側)に位置する丸の内地区は、明治時代に三菱財閥の前身である三菱商会が明治政府から当時の評価額の4~5倍とかなりの高額で払い下げを受けた国有地約10万坪の土地に洋風オフィス街ビルとして各企業の施設が建設されました。幾度かの建て替えや再開発を経て今日の姿があるわけですが、講師の野村氏からは丸の内地区という一等地での建て替え事例について土地の高度利用と歴史的建造物の保存をテーマに紹介いただきました。野村氏はこれまで業務として丸の内再構築のマスタープランの企画設計や日本工業倶楽部会館、三菱信託銀行本社ビルの設計チーフを担当した経験を基に、以降、歴史的建造物を含む数々の都市再生プロジェクトの設計に携わる中で、建造物の歴史的価値を位置付け所在を明確にする必要があること、構造を含む危険性を排除し施設の安全性を確保すること、コストや工期、補助金、再開発事業等の視点から事業として成り立つこと、その上で顧客に現施設を残そうという考えになってもらえるかがカギになるということです。
 スライドでの事例紹介ですが、丸の内界隈の「明治生命館(1934年)」、「日本工業倶楽部会館(1920年)・三菱UFJ信託銀行本店ビル」、「東京中央郵便局(1931年)・JPタワー」、「三菱一号館(1894年)」の4施設と銀座にある歌舞伎座について説明を受けました。


三菱地所内のゲストルーム 


野村氏の講演 


明治生命館(カタログ)


日本工業倶楽部会館(カタログ)


三菱一号館(カタログ) 


東京郵便局・JPタワー(カタログ)

 「明治生命館」は指名コンペ方式による岡田真一郎の設計によるもので5階分のコリント式列柱が並ぶ古典主義様式に則ったデザインを取り入れています。1997年に昭和の建造物として初めて重要文化財の指定を受けました。2001年から改修工事が行われ隣接地に30階建ての明治安田生命ビルを建設して一体的に利用することで歴史的建造物を活用しながらの前面保存が実現したとのことです。
 「日本工業倶楽部会館」は横河民輔の設計によるもので地上5階、RC造一部S造で日本における数少ない本格的なセセッション様式とのことです。1999年に登録有形文化財として登録されたが2003年に会館の南側部分を保存・再現したうえで建て替え、三菱信託銀行本店ビルとして竣工しました。テレビ放映された「下町ロケット」のロケ地(帝国重工重役室)にも使用されました。
 「三菱一号館」は三菱の建築顧問であったジョサイア・コンドルによりイギリス・クイーンアン様式の外観を持つ煉瓦造りの建築物として設計されました。地下1階・地上3階の煉瓦組積造(イギリス積)の建物は関東大震災による被害や土地の高度利用、歴史的建造物としての文化財指定申し入れなど、施設活用計画が議論を呼ぶ中で1968年に解体されました。現在の施設はレプリカ再建された煉瓦造りの建築物で、三菱地所設計、竹中工務店により当初設計図のうち残存していた22枚の解体時実測図、内外装写真、保管部材、明治期の建築雑誌等の資料を基に、入手不可能な材質は外観を似せた代替材を用いるなどして当時の外装、構造、材質を再現した建物とのことです。
 次に「東京中央郵便局」は逓信省営繕課の吉田鉄郎の設計によるもので地上5階、SRC造の建物で洗練されたモダニズム建築の傑作と讃えられています。2008年に具体的な再開発計画を発表し容積率の低利用という課題を克服するために都市再生特区の指定等を受け容積率の割増が認められています。東京駅などとの景観の調和を図るため外壁の一部を保存・活用し、その後ろに地下4階・地上38階建ての超高層ビル「JPタワー」を併設しています。
 各施設の概要説明を受け、11時からの1時間は「明治生命館」、「三菱一号館」、「東京中央郵便局・JPタワー」の3施設の見学です。引き続き野村氏にご案内いただきました。


明治生命館見学 


明治生命館模型展示


明治生命館1階 


明治生命館2階

 「明治生命館」は1階店頭営業室や2階会議室、応接室、食堂などの諸室について一般公開されています。また、資料・展示室では施設建設に携わった人々、明治生命館の歴史について詳しく紹介しています。


三菱一号館外部見学


三菱一号館内部(企業博物館)見学


三菱一号館内部(企業博物館)模型展示 


三菱一号館中庭から見学

 「三菱一号館」では施設内の企業博物館見学が可能となっており、建物の歴史や今日までの丸の内地区開発の歴史等を見ることが出来ました。
 「東京中央郵便局・JPタワー」では1階に展示コーナーがあり当時の郵便局の運営状況やこれまでの歴史的経緯等がパネル展示されていました。局舎完成前の1915年には郵便局と東京駅との間を結ぶ地下通路が開通しており鉄道郵便物のトロッコ輸送が行われていたとのことです。また、施設内の見学では郵便局の外壁を一部保存活用した部分の室内側は併設したJPタワーとアトリウムの部分で一体となっており、当時の構造体である鉄骨造の柱・梁を塗装仕上げしたデザインで室内空間の一部として見せています。これら歴史的建造物と再開発ビルを一体化した施設ですが、文化財施設として建築基準法の第3条の適用除外の条項適用を受けることなく、すべて建築基準法を満足させての施設整備ということでした。


東京郵便局・JPタワー外観見学 


パネル展示コーナー


アトリウムから見る新・旧施設の接合部 


平子代表理事の挨拶(現地解散)

 一泊二日での東京研修でしたが参加者の皆さんの感想はいかがでしたでしょうか。次年度も組合員の皆さんのご意見・ご要望を伺いながら研修計画を立てて参りますので多くの組合員の方々の参加をお願いいたします。