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受託業務

「桑折町歴史観光交流センター基本設計業務委託」 プロポーザル審査委員会 審査講評

2025.4.1

1.審査経過
 本プロポーザルは、桑折町と福島県建築設計協同組合が締結した「桑折町歴史観光交流センター基本設計業務委託」の設計担当者を選定するためのものであり、各分野から5名の審査委員による審査委員会が設置され、慎重かつ厳正な審査を行った。
 本施設は震災で被災した旧種徳美術館跡地の今後の在り方を検討する中で基本構想が取りまとめられたもので、隣接する旧伊達郡役所を中心に情報発信や観光案内、地域との連携や休憩施設、そして旧種徳美術館の貴重な美術品等の収蔵・展示機能を備えた施設として計画された。
 また、本事業は福島県建築設計協同組合の組合員を対象にプロポーザル方式の設計提案を募るものであり、本施設は旧伊達郡役所周辺の約6,700㎡の敷地面積にRC造又はW造平屋建て、床面積300㎡以内で本体と収蔵施設とを整備することとしている。
 プロポーザルの審査は、2/20(木)に桑折町役場庁議室で第一次審査会を開催した。審査に先立ち11時からの審査委員会では第一次審査の進め方について審議した。
 はじめに、本来プロポーザルは文字での表現を基本とし、それを補完するためのイラストやイメージ図の使用は認められているが、受付番号②について、イメージとして描かれた外観が、この基準を超えていると判断し失格となった。また、受付番号⑤及び⑦については、明示された床面積の記載が条件として示した面積を超えており、失格とはしないものの、これを踏まえて審査することとなった。文字の大きさにも疑義があったが、注意を促すことにとどめることになった。
 引き続き、13時10分から第一次審査を行った。審査員にはそれぞれの専門的立場から7者の提案書について意見をいただいた。基本構想の読み込みの深さや実現性、旧郡役所に対する建物の考え方、南側敷地に計画される駐車場との動線やアクセスの考え方、収蔵庫の配置や展示方法などについて意見が交わされた。その後の審議の結果、受付番号①、③、④、⑥をヒアリング要請者として選定した。
 2/26(水)に桑折町屋内温水プール・多目的スタジオ「イコーゼ」で第二次審査会を開催した。審査に先立ち11時から二次審査の進め方等について審議した。ヒアリングは1者25分(説明10分、質疑15分)で進めること、4者ヒアリング終了後、休憩を挟み、選定作業は各審査委員の意見を基に進めること、必要に応じて投票を行うこと、最優秀者及び優秀者を選定すること、前回の審査会と同様に二次審査も組合員公開で行なうこと、また、ヒアリングは町民にも公開することを確認した。
 引き続き13時10分より第二次審査を行った。プロジェクターを使っての提案者説明の後、第一次審査で意見交換が行われた点を中心に各審査員の立場からの質疑応答を行った。
 ヒアリング後の選定作業では、各委員から審査についての講評をいただいた後、各審査委員に最優秀提案「◎」1者、優秀提案「〇」1者を記載して無記名で投票を行った。その結果、受付番号③が◎5票、受付番号④が〇4票、受付番号⑥が〇1票となり、満票の受付番号③:AUM(株)を最優秀提案者に、受付番号④:(有)大野建築設計事務所を優秀提案者に選定した。

2.審査結果
 最優秀提案者(受付番号③):AUM(株)
 優秀提案者 (受付番号④):(有)大野建築設計事務所

3.審査委員会の構成
 審査委員長:市岡 綾子氏(日本大学工学部:専任講師)
 審査委員 :神田 隆雄氏(桑折町都市計画審議会:委員長)
 審査委員 :大内 健矢氏(桑折町:総合政策課長)
 審査委員 :佐藤 克彦氏(桑折町:教育文化課副参事)
 審査委員 :白井 武男氏(福島県建築設計協同組合:顧問)

4.講評
 今回のプロポーザルは、桑折町のシンボルである旧伊達郡役所の敷地内に、歴史観光交流センターと解体された種徳美術館の収蔵物保管庫機能を配するという、小規模建物の提案ではあるものの、非常に限られた敷地面積に基本構想で示された設計要件をクリアすることが求められる課題であったが、特に第2次審査の対象となった4者は、それぞれに旧伊達郡役所や桑折町における位置付けに配慮した提案がなされ、設計力の高さがうかがえた。
 旧伊達郡役所を主人公として捉えた点はどの提案にも共通しており、景観との調和を重視した考え方や、今日的なデザインなどを活かしながら未来につなぐ考え方などによる違いがみられた。重要文化財に近接した新築建物となることから、様々な制限がかかることも予想され、提案を基にしながらも柔軟な対応が求められるため、ヒアリング審査においては軸となる考え方を確認する機会にもなった。
 基本構想には南側敷地から北側敷地へのスロープ動線が記載されていたものの、歩いて楽しむ歴史探索の拠点となる場所であれば、敢えてスロープを設けずに駐車場から歩いて旧伊達郡役所の正面に向かう考え方が提案されることを期待していたが、残念ながらそのような案は見られなかった。いずれもスロープは提案されていたが、石垣には極力触れずに設置する提案やスロープを賑わい創出の広場と融合させる提案、スロープを単なる移動空間だけにせず、ベンチを設置し滞在や寛ぎ空間とする提案など、多くの可能性が提案された点は大変興味深かった。
 プレゼンテーションにおいては、分かりやすく明快にまとめられている提案が多かったものの、イラストが具体的に描きこみすぎとの判断に至った提案があったことは残念でならない。明確なルールがないため提案者が悩むとはいえ、今回は小規模な建物提案であるがゆえに、具体的な表現を避けるプロポーザル提案の原則を準拠させていただいた。
 ここで、先ず第二次審査(ヒアリング)対象となった4者の個別の講評を以下に述べる。

【最優秀提案者】
(受付番号③)
 旧伊達郡役所と設計建物との間に設けられた延焼防止用の距離を屋外広場とし、その広場を囲むように緩やかな湾曲面の形状とすることで、奥州街道からの旧郡役所の景観には被らずに配慮している提案である。建物高さを低く抑え、旧郡役所からの眺望にも配慮した点など、旧郡役所を主役に捉えた控えめな考え方は好感が持てる内容であった。湾曲した外壁面には、屋根で覆われた幅の広い休憩の場も兼ねた通路として「まちのえんがわ」と称する屋外テラスを計画し、内部空間はこの「まちのえんがわ」と繋がることで、人々を導き、憩う場を意識している。来訪者が利用する内部空間は一体利用を可能としつつも、可動式間仕切り壁により個別利用にも対応でき、小規模ではあるものの多機能な利用が求められている本建物に応じて、より良くまとめられていた。
 半田山への眺望や陣屋の杜公園との連携を意識している点だけではなく、歴史ある桑折町内の各地へと巡りたくなるように、その拠点として位置付けた計画は本建物が求められている機能そのものであり、穏やかに人々が集まることを意識している点が魅力である。しかしながら、隣地への配慮や旧郡役所東側の計画など、全体の計画にはさらなる検討を求めたい。RCとCLTのハイブリット構造を採用し、木質化を意識した計画については、町との緊密な意思疎通の連携を図り、桑折町を代表する穏やかな建物となるよう期待している。

【優秀提案者】
(受付番号④)
 旧伊達郡役所を主役に据え、限りなく主張せずに交流人口を増やす縁の下の力持ちとして「Koori Show Room」と称する透過性の高い発信力を求めている提案である。奥州街道からの旧郡役所の景観への配慮はもちろんのこと、半田山や西山城跡、寺町の眺望などを確保しつつ北側に設けた屋外テラスとの一体利用や、プロムナードにより敷地を一周できる動線計画など、北側敷地においては特に丁寧な提案がなされている。また、中心市街地の賑わい創出の一環として、南側敷地には交流広場を設け、災害時にはマンホールトイレとしての利用を検討している点も魅力的である。
 文化財収蔵庫を分棟化した提案は本案のみであり、デジタル展示ではなく実物展示をする際には難点が生じるが、内部空間では事務室以外は一体空間となり、透過性の高い空間はまさしくShow Roomであり、サイン計画によるアクセス性の確保など、ソフト面も含めた充実した提案内容であり、特に子どもたちの木育の場としても活用し、アイデンティティを醸成する考え方には感銘を受けた。木造在来工法による準耐火建築物での初期費用の低減化を図り、内装木材は地元産を採用するこだわりにも、桑折の歴史文化を伝えるにふさわしいと思われるが、図面上では柱本数が多い点が気になるところである。
 提案のレイアウトはテーマごとに構成され、非常に見やすい点も評価に値する。

【第二次審査(ヒアリング)対象】
(受付番号①)
 半田山に呼応する大屋根が特徴的な本提案は、その大屋根のもと、機能ごとに分棟化された空間を配し、多種多様な移動空間を「ミチ」と称し、ミチでつながる空間を計画している。旧郡役所のフロアレベルと高さを揃えたエンガワデッキを設け、相互の一体的な利用を意識し、交流ストリートとともに人々の賑わいを創出する場として機能する一方、旧郡役所東側は歴史のニワとして歩きたくなる庭園として整備され、その歩道は南側敷地に至るまで続いており、歩いて巡る人々を意識した動線計画である。
 WSの開催により維持管理も含めた地域住民との協働を意識した考え方は大変興味深く、大屋根の下で展開される半屋外空間での多様な居場所形成も魅力的であるものの、旧郡役所が文化財であることから考えると、大屋根との距離が非常に近い計画は残念に思われる。奥州街道からみた旧郡役所の景観を可変する影響が大きくならないよう検討いただきたかったところである。

(受付番号⑥)
 奥州街道から旧伊達郡役所の景観を意識し、旧郡役所を主役にしつつ、半円形の中心部に外部の集いの広場を設け、奥州街道からの動線に開くことで自然と中心に人々が集まる空間を提案している。内外部もシンプルに設計され、ガラス越しに軒下空間、集いの広場、伊達郡役所の見える化を図るとともに、各スペースの連携を高め、新たな夏の集いの場となり得る提案である。外観も旧郡役所の下見板張りと合わせる意匠上の工夫を提案するなど、旧郡役所への思いとこだわりが伝わる内容であり、ヒアリングでもその点は強く感じられた。
 収蔵部分を北側に配置し、断熱性、保湿性を確保し、外的影響をできるだけ受けないように配慮する点への評価も高かったものの、中心市街地での賑わい創出の場として、集いの広場での活動的なイベント展開を提案されているが、旧郡役所には馴染みにくいのではないかとの評価も挙げられた。

 次に、今回は第一次審査のみの審査となった3者の提案の講評を以下に記す。
(受付番号②)
 旧伊達郡役所と計画建物の間にKOORIテラスと称する半屋外空間を設置し、内部空間はそのテラスに面した部分に機能空間、その奥となる西側に収蔵と事務室、トイレを配置するという非常によく考えられた計画提案である。奥州街道からの旧郡役所の景観にも配慮され、主役を引き立てる建物としてデザインの統一性も図られており、魅力的な建物であることを、外観イメージで具体的に伝えすぎてしまった点が誠に残念である。
 敷地計画においても、南側敷地からのアクセスを2通り設けることで動線を無理なく回遊させる点や駐車場の一部をイベント利用する提案、収蔵室への搬入車両への配慮など、高評価であった。旧郡役所の西側出入口を積極的に活用している点は問題があるものの、KOORIテラスの雰囲気も心地よく、運営管理の面からも丁寧な検討がなされた提案である。

(受付番号⑤:ヒアリング対象者)
 半円形の開きが他の円形を採用した案とは逆に開いており、かつ円錐の象徴的な吹抜け空間が中央に配置された提案である。旧伊達郡役所とともに計画建物も目立たせる計画と思われるが、シンボリックな円錐が本計画には馴染まないという意見が多く挙げられた。奥州街道から旧郡役所への景観には配慮されているが、旧郡役所と計画建物との関係性が読み取れず、もう少しわかりやすい説明が求められる資料であった。

(受付番号⑦)
 桑折町の温故知新として、建物と広場を計画された提案であるが、予算内で収まるかについては、疑問が残るものであった。奥州街道から旧伊達郡役所への景観に配慮した建物配置、テラスと動線、水路による距離など、評価できる点もあるものの、水路やハートレイク造園計画の必要性については、今回求められている提案よりも過剰に提案されているとの意見が主流を占め、本来検討すべき項目へのより充実した提案を拝見したかった。サイクルツーリズムを推進する点やVR機能の取り込みの提案など、将来性を見据えた内容ではあった。

おわりに
 最後に、本プロポーザルに積極的にご参加いただき、多くの貴重なご提案を頂いた各応募者の皆様には、審査委員会一同、深く敬意と感謝を申し上げます。また、今後、最優秀提案者によって行われる施主側との綿密な打ち合わせ等により、今回示された基本構想に基づく内容に留まらず、提案内容がさらにブラッシュアップされ、桑折の歴史的風致を意識した質の高い歴史観光交流センターの実現に向けて、より良い基本設計書が完成することを期待いたします。

(審査委員長 市岡 綾子)